こんにちは、コトポッター店主の横山です。
今回は、京都・京北に工房を構える陶芸家・和泉良法さんにお話を伺いました。
和泉さんは、天目や青瓷などの※窯変 技法を中心に、美しいグラデーションを生む作品で多くのファンを魅了し続けている作家です。
※窯変…釉薬に含まれる鉱物などを焼成中に化学反応させて色彩を生み出す技法。
50年以上のキャリアをもつ和泉さんに、陶芸の始まりから現在に至るまでの思いや作品制作への姿勢を、じっくりと伺いました。
和泉良法
- 1947年9月 京都市東山に生まれる。
- 1970年 大阪芸大クラフトデザイン陶芸科卒業
- 1971年 京都市立工業試験場卒業
- ~
- 1977年 東京・大阪にて毎年個展を開く
- 1994年 中国に渡り青磁、天目の古窯跡を視察
- 2013年 右京区京北に陶房を移す
陶芸を始めたきっかけは?
横山:陶芸の道を志したきっかけをお聞かせください。
和泉さん:実家が東山の※ 日吉 で清水焼の卸売をやってたんや。せやから、清水焼とか焼き物は小さいときから身近にあった。大阪の大学で陶芸を学んだこともあったし、家業を継ぐことも考えたけど、『ものを売るより作るほうが自分に向いとる』と思って、陶芸の世界に入った。
※日吉…京都市東山区の日吉地区。窯元が立ち並ぶ歴史ある地区。
横山:大学ではどのようなことを学ばれましたか?
和泉さん:※ 鈴木治 さんや※ 林康夫 さんさんが教えてはった。当時からトップの陶芸家で、伝統的な焼き物よりむしろオブジェ的な作品がメインやったかな。
※鈴木治…1926-2001。戦後の陶芸界をリードした走泥社の創立メンバー。京都市立芸術大学名誉教授であった。
※林康夫…1928-。 第30回フアエンツア国際陶芸展 グランプリ受賞など多くの賞歴を持つ陶芸家。
横山:卒業後、どのようにして工房を構えられたのですか?
和泉さん:大学卒業後は※ 試験場 で釉薬の研究をして、その後に嵯峨野の大覚寺近くに工房をつくった。実家の近くにも窯元は多かったけど、親父の知り合いが大覚寺のあたりで借りてた場所をちょうど引き継がせてもろたんや。
※試験場…京都市工業試験場。前身は京都市陶磁器試験場。釉薬や陶土の研究を行う。
< 大覚寺。京都の西、嵯峨野の名刹。時代劇のロケ地としても有名。 >
横山:そのタイミングで大阪万博(1970)もありましたね。
和泉さん:せやな。ちょうど京都に観光客が増え始めた時期で、修学旅行生向けの陶芸教室やレンタサイクルの貸し出しなんかもやってたわ。
窯変作品を作り始めたきっかけは?
< 盃 青瓷 和泉良法作 >
横山:当時の作品は、今の作風と違いがありますか?
和泉さん:天目や青瓷はその頃から作ってた。ただ、天目は今ほど人気がなくて、ほとんど売れへんかったな。青瓷は懇意にしてくれる店が扱ってくれて、ロクロ師も雇ってぼちぼち続けとったわ。
< 盃 流星 和泉良法作 >
横山:天目「流星」は代表作ですが、誕生までの経緯を教えてください。
和泉さん:どうせ作るなら面白いもんがええやろと思て、天目釉の流動性をとことん追求したんや。微妙な配合や温度差で見え方が変わるから、データを取りつつ試行錯誤してたら、自然と今の青いグラデーションになっていった。出来の悪いもんは淘汰されていく――自然界と一緒やな。
横山:参考にされた名品などはありますか?
和泉さん:あれはオリジナルやと思うよ。同じものばっかりやったら飽きるし、各種バリエーションを増やしていって、今の形になった。
横山:窯変技法にこだわる理由は何でしょう?
和泉さん:こだわりというより、単に興味があったんやろな。大学ではオブジェや彫刻が主流やったけど、自分には向いとらんかった。絵付けにもあまり興味がなかったし、窯変のデータを取って次に活かすやり方が自分に合うたんやと思うわ。
横山:例えば「あの名品に感動して、自分も作りたいと思った」ということではない?
和泉さん:そう言ったほうがストーリーにはなるやろうけど、嘘はつかれへんわ(笑)。
陶芸の世界はどう変わった?
横山:陶芸で半世紀のキャリアを持つ和泉さんから見て、昔と今で、陶芸の見られ方や売れ方は変わりましたか?
和泉さん:昔は賞歴やギャラリーの個展が重視されとったけど、今は作品そのものを見てもらえるようになった気がするわ。おかげで、肩書きがなくても作品を気に入ってくれる人がいて、続けられとる。
< 小鉢 北山杉灰 和泉良法作 >
横山:うつわ作りで大切にしていることはありますか?
和泉さん:「使う人が飽きずに長く愛用できるもの」をつくることや。自分も料理するし、うつわに盛ったときの見栄えも大事にしてる。売れへんかったら「これではあかん」という判断もできるしな。
横山:和泉さんのお話しを聞いていると、すごく自然体で陶芸に向き合っているように思います。世の中には寝食を忘れて陶芸にのめりこむ陶芸家の方もいらっしゃいますが、和泉さんはそういうタイプではないですか?
和泉さん:そうやな。陶芸は好きやけど、『昼メシ何食べようか』とか他のことを考えてるし、海外に旅行によくいってる。適度に距離を置いて楽しむほうが、自分には合うわ。旅先の発見が作品に生きることもあるし、陶芸だけにのめり込むのも視野が狭くなるしな。
横山:和泉さんは今年で77歳ですが、引退は考えていますか?
和泉さん:まあ、体が動いて注文があるうちはやめるつもりはないかな。もっと面白いものを作りたいし、キレイなものを作っていきたいし。
読者へひと言お願いします
横山:最後に、和泉さんの作品を手に取る方々へ伝えたいことはありますか?
和泉さん:「作品を見て美しいと感じてもらいたい」――それだけや。難しいことは考えず、まずは直感で楽しんでくれたらうれしいわ。
<盃 銀星 和泉良法作 >
編集後記
和泉良法さん、ありがとうございました。
作ることを自然に楽しみ、飾らずに語る和泉さんの姿勢は、とても印象的でした。
これからも美しい作品を生み出し続けていただけることを、心から楽しみにしています。
KOTOPOTTER 店主
横山雅駿
10年以上にわたり、京焼・清水焼はじめ伝統工芸品や陶磁器に携わっています。
京都の窯元や陶芸家と連携し知見や審美眼を深めながら、新しい伝統工芸品の在り方を模索しています。
2024年に京焼・清水焼専門のECサイトKOTOPOTTERを立ち上げました。