
小さなうつわに宿る超絶技巧
小野多美枝さんが「空女(くうにょ)」の名前で手がける作品は、鮮やかな色づかいと細やかな絵柄が特徴です。
代表作の「華薩摩(はなさつま)」シリーズでは、伝統的な技法に現代的な感性を取り入れた、美しく華やかなデザインが目を引きます。

すべての作品は手描きで仕上げられており、金やさまざまな色を使った装飾が施されています。花や動物などが丁寧に描かれ、その豪華さと繊細さが空女さんの世界観を際立たせています。
明治期の幻の焼き物「京薩摩」
「京薩摩(きょうさつま)」と呼ばれる焼き物は、明治時代の終わりごろ、京都で作られ始めました。当時は海外への輸出用として人気があり、きらびやかな金の装飾や、細かなヒビ模様の入った白い素地が特徴でした。
しかし戦争の影響などで、昭和の初めにその技術はいったん途絶えてしまいます。

<明治期 薩摩焼 色絵扇面散瓔珞文輪花鉢/国立文化財機構所蔵品統合検索システム>
ひとりで歩き始めた、辿り着いた細密画への道のり
空女さんは、この一度失われた焼き物の魅力に心を奪われ、自らの手でその技術を学び、よみがえらせました。彼女の「華薩摩」は、かつての京薩摩の美しさを引き継ぎながらも、空女さんならではの工夫が加えられ、古き良き日本の美と、現代のセンスが見事に調和しています。
新しいデザインを常に模索しながら、一つひとつの作品に真摯に向き合う空女さん。制作する時間そのものを楽しみ、作り手としての成長を大切にしています。

作品を手にした人が感動してくれたとき、自分の仕事の意味を再確認できると話す空女さん。伝統を守るだけでなく、時代に合わせて進化させることにも強い想いを持っています。
彼女の作品は、ただの器ではなく、過去と未来をつなぐ「芸術」として、多くの人に愛されています。

KOTOPOTTER 店主
横山雅駿
10年以上にわたり、京焼・清水焼はじめ伝統工芸品や陶磁器に携わっています。
京都の窯元や陶芸家と連携し知見や審美眼を深めながら、新しい伝統工芸品の在り方を模索しています。
2024年に京焼・清水焼専門のECサイトKOTOPOTTERを立ち上げました。