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毎日の茶の湯の時間を豊かにしてくれる抹茶碗。
美しい絵付けや手に馴染むやわらかい質感は、使い手の心を癒してくれる存在です。
けれども、その魅力を長く楽しむには、正しいお手入れと取り扱いが欠かせません。
この記事では、抹茶碗のお手入れの基本に加え、素材や装飾ごとの取り扱いポイントを分かりやすく解説します。
1. 抹茶碗のお手入れ|基本の流れ
抹茶碗の多くは陶器でつくられており、磁器製のものは少数派です。特に楽焼などの抹茶碗は、独特の土の風合いや柔らかさを持ち、茶道の精神性を色濃く映し出す器として大切に扱われています。
使用前:目止めと湯通し
陶器製の抹茶碗は吸水性が高く、そのまま使用すると茶渋やシミの原因に。使う前には、ぬるま湯に数時間浸す「目止め」を行い、汚れの染み込みを防ぎます。茶会の直前には軽く湯通しすることで割れを防ぎます。
楽焼は低温焼成で柔らかく、熱衝撃に弱いため、ぬるま湯での馴染ませが重要です。
使用後:やさしく手洗い
使用後はぬるま湯でやさしく洗い、柔らかい布やスポンジで汚れを落とします。中性洗剤は必要最低限に。金彩や上絵付けの器は特に注意が必要です。
乾燥と保管
ご使用後は熱湯で軽く流すと乾燥が早まり、カビの予防になります。洗浄後は布で拭かず、高台を上にして陰干し。5〜7日かけてしっかり乾燥させ、桐箱など通気性の良い容器で保管します。ウレタンなど通気性のない緩衝材で包むと、湿気がこもるため、布で保管されることをオススメします。
素材 | 特性 | お手入れのポイント |
---|---|---|
陶器(土もの) | 吸水性高い・やわらかい 仁清地・楽焼・唐津焼・萩焼など多くの抹茶碗に使用 |
湯通し必須/目止め効果あり/手洗い・陰干し |
磁器(石もの) | 吸水性ほぼなし・硬く丈夫 | 洗剤・食洗機OK(※装飾に注意)/急冷NG |
2. 装飾・釉薬ごとの注意点
装飾
上絵付け(釉の上に彩色)

本焼きの後に釉薬の上から絵具で絵付けする方法です。
京焼・清水焼に多い仁清地に上絵付したものなどが代表で、鮮やかな色彩と金彩など華やかな装飾が特徴です。
摩擦や熱に弱く、食洗機や電子レンジは避けましょう。多くの抹茶碗に用いられており、丁寧な手洗いと個別収納が基本です。
下絵付け(釉の下に彩色)

本焼き前に絵付けをし、釉薬をかけて本焼き焼成する方法で装飾されたものです。
抹茶碗だと、京焼の染付絵や唐津焼の絵唐津などが代表的です。
上から釉薬でコーティングされているため、絵自体は簡単には剥げません。
耐久性があり、日常使いに向いています。通常の陶器として洗浄でOKです。
交趾(こうち)

立体的なフレーム(イッチン)と鮮やかな色彩が特徴の抹茶碗です。
酸や衝撃に弱いため、やさしく手洗いを。温度変化にも注意しましょう。
釉薬
仁清地(にんせいじ)

粟田手(あわたで)とも呼ばれる、乳白色の柔らかい色が特徴です。
陶器らしい温かみがあり、色絵や金彩が映える京焼を代表する抹茶碗です。
白く柔らかい地に貫入が入り、茶渋が染み込みやすい。湯通しと早めの洗浄・乾燥が大切です。
楽焼

手ごねで成型された日本を代表する抹茶碗で、赤楽や黒楽、茶色のものなどがあります。
急熱急冷で作られており、艶感と土の風合いが魅力。
柔らかく割れやすいため、手洗いと自然乾燥が基本です。
自然釉

信楽焼や萩焼などに多い、侘び寂びを感じさせる抹茶碗です。
登り窯で焼成されたものは、焼成時に燃料の木材の灰が自然にかかり、灰釉となって釉薬で景色を楽しめます。
陶器らしい見た目に反して、高温で焼かれているため頑丈ですが、釉薬のない部分は水を吸いやすいため注意。
天目釉(てんもくゆう)

抹茶の文化と同時に中国から伝わった歴史ある抹茶碗です。
黒や飴色の鉄系釉薬。艶のある真っ黒なものから、窯の中でできるまだら模様が美しいものなど作り手によって作風が大きくことなるのが特徴です。
3. 正しい扱いで、器と長く付き合うために
抹茶碗は、ただの道具ではなく、使うたびに心を整え、日々の暮らしに彩りを添えてくれる存在です。
素材や装飾の特徴を理解し、それぞれに合ったお手入れをすることで、その美しさや風合いを長く楽しむことができます。
正しい取り扱いを習慣にして、うつわとの豊かな時間を育てていきましょう。